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#44/ 車の運転が怖いという話をしてたら秒でプロスペクト理論の講義になった - 前編

本コンテンツは、「Nodebaseのコンテンツになりそうな雑談」というテーマでNodebaseチームで雑談をした回の文字起こしです。雑談なので、細かい内容の検証等はしていません。内容に間違いがある可能性はありますので、その辺りご容赦ください。

今回は、結構車社会の地方在住のサキさんが「車の運転が怖い」という話をしたら秒でプロスペクト理論の話になった回(前編)です。

サキ : 私、車の運転が怖いんですけど

バルカナ : そうなんですか?笑 どういうことですか?

サキ : 色々考えちゃうんですよね。事故に遭ったらとか、事故を起こしたらとか。車の運転だけじゃなくて、先日出張したときも、出張中にPCが壊れたらどうしようとかとにかく色んなことが心配になっちゃうんですよね。

バルカナ : 心配性ですね

サキ : 心配したようなことが現実にはそうそう起こらないだろうことは分かってはいるんですけど、何か自分の身に起きてしまうような気がしてしまって、これは何なんだろうって思ってたんですよね。

カンタ : あー、低い確率を過大評価するってことですよね?

サキ : そうですね

カンタ : それはノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンって人がプロスペクト理論っていうのでちゃんと説明してくれてるやつだと思う。

バルカナ : カーネマンって何か聞いたことはあります。行動経済学とかの人ですっけ?

カンタ : そう。ビジネス書とかでも行動経済学の話はよく出てくるから何となく知ってる人は多いと思うんだけど、主要な功績のプロスペクト理論についてちゃんと説明してるのあんま見たことないから、それ説明してみようか

バルカナ : プロスペクト理論はよく知らないです

カンタ : 例えば、次の選択肢があったときにどっちを選ぶ?

(a-1) 確実に100万円もらえる

(a-2) 50%の確率で200万円もらえるが、50%の確率で何ももらえない

サキ : えー。私は(a-2)を選ぶかもしれないです。

バルカナ : えーどうだろう。私は(a-1)を選ぶかもしれない

カンタ : 次に、

(b-1) 確実に100万円失う

(b-2) 50%の確率で200万円失い、50%の確率で何も失わない

サキ : えー、難しい。これなら (b-2) に賭けてみたくなると思います

バルカナ : これめっちゃ難しいですね。んー、私は200万は嫌だから(b-1)を選ぶかもなー。

カンタ : これって数学的な期待値としては、(a-1)と(a-2)、(b-1)と(b-2)って同じことを言っていて。期待値って確率x利得の総和ね。

バルカナ : あー、何かありましたね。期待値。

サキ : あった気がします。

カンタ : 一応中学数学だと思うから説明は割愛するね。笑

バルカナ : はい。笑

カンタ : まぁ合理的な人間であれば、(a-1)も(a-2)も同じだからどっちでもいいってなるはずだし、(a)と(b)も損得をひっくり返しただけだから、振る舞いは変わらないはずなんだよね

バルカナ : なるほど?

カンタ : 従来の経済学では、そういう完全に合理的に振る舞う人を前提として、そういう人たちが各々の利を最大化するように振る舞ったら何が起こるか?みたいなことを研究してきたんだけど

サキ : そうなんですね

カンタ : 物理学でいうと完全な真空状態を想定して物の振る舞いをモデル化するみたいなアプローチ

バルカナ : 現実的ではないように聞こえますね

カンタ : もちろん現実世界がそのように完全に合理的でないということは分かっていたんだけど、とりあえず、そのような非合理性はランダムに起こるノイズだという風に扱ってきたんだよね

サキ : なるほど。

カンタ : で、カーネマンたちが行動経済学で明らかにしたことは、人間の非合理性というのはランダムなものではなく一定の傾向のあるバイアス(偏り)であるっていうことで

バルカナ : へー

カンタ : 例えば、さっきの(a)と(b)で損得が逆転してるわけだけど、得の時の考え方と、損の時の考え方って明らかに異なっていたよね。

バルカナ : そうですね。失うの嫌だなーって思いましたね。

カンタ : そういう非合理性の偏りみたいなものを理論化して、数式にして、科学的に分析可能な対象にしたというのが凄かったところなんだよね。

バルカナ : へー。そういう風には理解してなかったです。

カンタ : で、その中でもカーネマンたちの代表的な功績がプロスペクト理論で。あ、余談だけど、プロスペクト理論カーネマントゥヴェルスキーって人の共同研究だったんだけど、ノーベル賞受賞する前にトゥヴェルスキーが亡くなっちゃって、存命の人しかノーベル賞って受賞出来ないからカーネマンだけ受賞したんだよね。

バルカナ : 豆知識。笑

カンタ : で、そのプロスペクト理論っていうのが、「価値関数」「確率加重関数」って2つの要素から出来ていて、サキさんが低い確率を高く見積もり過ぎちゃうというのは後者の確率加重関数の話。

サキ : なんか難しそうですね。

カンタ : 名前は難しそうだけど言ってることはシンプルだから大丈夫。どっちも説明しないと分かりにくいから価値関数の方から説明するね。

サキ : お願いします

カンタ : 何か普通に講義みたいになってきたな。笑

バルカナ : 笑

カンタ : 例えばさ、1万円あげますって言われてもらったときの嬉しさと、1万円落として失くしちゃときの悲しさ、どっちが大きい?

バルカナ : え。んー、嬉しさと悲しさを比較するの難しいですが、失ったときの悲しさの方が大きい気がします。

サキ : 私もそうですね。

カンタ : そうだよね。その話につながっていくんだけど、もう少し手前から説明をすると、伝統的な経済学では「効用」という概念があるんだけど。例えば、りんごをもらった時の嬉しさと、服をもらっと時の嬉しさって違うものではあるよね。

サキ : 食べ物と着る物なんで同じではなさそうですね

カンタ : ただ、経済学では経済活動一般についてモデル化したいから、これだとちょっと扱いづらいから「効用」って嬉しい度合いという指標を仮定してるんだよね。

バルカナ : ほう。

カンタ : 例えば、りんごを1個もらったら効用が3増える。服を1着もらったら効用が10増えるみたいな。

サキ : なるほど。

カンタ : そうすると、例えば、1万円で(りんご20個と服を1着)と(りんご3個と服を1着)のどちらかを得られるとしたら、どっちを選ぶか?みたいな時に、「効用が大きい方」っていうふうにモデル化出来るよね

バルカナ : あー、なるほど。どっちが大きいかって決まってるんですか?

カンタ : それは人による。けど、効用が大きい方を選ぶよね、ってとこまでを仮定している。

バルカナ : あー、それなら納得出来るかも。

カンタ : んで、この「効用」にはいくつか法則があって、そのうちの一つに「限界効用逓減の法則」というのがちょっと関係してるから説明するんだけど

バルカナ : また難しそうなやつ出てきた

カンタ : これは、シンプルに言うと、りんごを1個も持ってない状態で1個もらえる喜びと、りんごを100個持っていて追加で1個もらえる喜びだったら、前者の方が大きいよねってこと。

サキ : あー。分かりますね。

カンタ : 「喜びの増え方」が「だんだん減っていく」というのが、「限界効用」が「逓減していく」ということ

バルカナ : なるほど

カンタ : んで、この効用はりんごの個数の絶対値に対して一意に決まるという特徴があって。例えば、りんご5個の時の効用が10、6個なら12、7個なら13、だとすると、5個から7個に増えたら+3だし、7個から5個に減ったら-3という風に考える。

バルカナ : はいはい

カンタ : グラフで見ると分かりやすいんだけどこんな感じ。

サキ : なるほど。

カンタ : んで、プロスペクト理論では、これに2つの観点でUpdateを加えていて、「参照点依存性」「損失回避性」っていうんだけど。

バルカナ : ほう。

カンタ : まず参照点依存性というのは、人は価値の絶対値じゃなくて、価値の増減という相対値に対して人は何に効用を感じるかるんじゃないかということ。

サキ : なるほど?

カンタ : たとえばりんごの例で言うと、5個から7個になったというのはりんごが+25個というのが参照点)、7個から5個になったというのはりんごが-27個が参照点)という風に考える。んで、+2の時の効用と、-2の時の効用という風に考えるということ。

サキ : あー、なんか感覚的には分かります。

カンタ : んで、この効用の増え方・減り方には、得と損で非対称性があるよねという指摘をしたのが損失回避性なんだけど。

バルカナ : ほう。

カンタ : カーネマンたちは冒頭で考えてもらったみたいな問題を色んな人にいっぱい答えてもらって実験をしたんだけど、例えば、

(c-1) 80%の確率で10万円得られるが20%の確率で5万円失う

(c-2) 確実に7万円得られる

カンタ : こんな感じで色んなバリエーションで答えてもらったのね

バルカナ : なるほど。選ぶの難しいな。

カンタ : んで、それを統計処理して近似曲線みたいなものをモデル化したのがこんな感じなんだけど

カンタ : グラフの原点が参照点で、例えば、参照点から+1いくと効用(主観的価値)が+1になるとすると、-1に行くときは-1.6くらいになるという事を明らかにしたんだよね。

バルカナ : へー

カンタ : 1.6という数字自体は実験によってブレがあるみたいだけど、だいたい失う悲しみは得られる喜びの2倍くらいというのは傾向として言えそうというのが今のところの結論(だと思う)

サキ : なるほど。分かる気がしますね。

カンタ : だから、1万円失くしてから1万円を得られても悲しみ-2喜び+1で合計-1だから、客観的な価値としては±0のはずなんだけど主観的な価値としては悲しみの方が大きいっていう状態になるということ

バルカナ : あー、分かる。確かに。

カンタ : 仕事で、相手の期待値を下回るという事に対してめちゃくちゃうるさく言ってるのはこういうバイアスがあるからなんだけど

バルカナ : おー、そこにつながるのか

カンタ : クライアントは、僕らが提供出来た価値の絶対値ではなくて、彼らの事前の期待からの差分で評価するので、どんなに良い仕事をしても期待値を下回るとネガティブな評価をされるんだよね。

バルカナ : 身に覚えがたくさんあります。

カンタ : だから、過度な期待値を持っていないかを事前に入念に確認をするし、ズレていそうであれば修正をする。一度合意したら絶対にその期待値を上回る、ということをし続けないと生き残れないというのは、こういう人間の認知バイアスがあるから。

サキ : なるほど。

カンタ : って、なんか身近な学びみたいなものに繋げられたところで、長くなってきたから一旦切りますか。

バルカナ : 情報量的にもお腹いっぱいになってきたところでした。

カンタ : 次回、サキさんの車の運転が怖い話の謎が解明されるので乞うご期待ということで。

サキ : 楽しみです!

バルカナ : 期待値上げて大丈夫ですか?

カンタ : 大丈夫じゃないかもしれない。

バルカナ : 笑

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